物流業界は現在、100年に一度の変革期にあると言われています。物流業界はこれまで、物流二法の改正とともに改革が進められてきましたが、企業や組織ごとのコスト削減や効率化を重視する「個社最適」の考え方が主流でした。しかし、EC市場の拡大、労働力不足、環境規制の強化といった外部環境の変化により、「物流ネットワーク全体の最適化」を前提とした経営戦略が求められています。その鍵となるのが、「フィジカルインターネット」です。

フィジカルインターネットとは、インターネットのデータ通信の仕組みを物流ネットワークに応用し、企業間で物流資源・データを共有することで、効率的かつ持続可能な輸送を実現する新しい物流の概念です。従来の企業ごとの個別最適な物流から脱却し、物流ネットワーク全体で効率化を図ることで、コスト削減・環境負荷低減・輸送効率の向上を同時に実現することが求められています。

フィジカルインターネットがもたらす物流の全体最適化

物流ネットワークはより柔軟な「フルメッシュ型」へ
従来の物流は、各企業が独自の配送網を持ち、それぞれの中心拠点から各拠点へ集約と分散を繰り返す「ハブアンドスポーク型」の仕組みが主流でした。しかし、この方式ではハブへの依存度が高くボトルネックが発生しやすいことに加え、トラックの積載率低下、輸送距離の増加、コスト上昇、CO₂排出量の増大といった課題を引き起こします。

こうした課題に対し、フィジカルインターネットはデジタル技術を活用し、物流ネットワーク全体の需給をリアルタイムで最適化することで、企業間の物流リソースを共有し、効率的な配送を実現します。具体的には、AIを活用した需要予測、IoTによる貨物のリアルタイム管理、ブロックチェーンによる取引の透明化 などのデジタル技術を組み合わせることで、物流全体の可視化と最適化を可能にします。その結果、「フルメッシュ型」の物流ネットワークへと進化し、異なる企業の商品を統合して共同配送を行うことで、トラックや倉庫の稼働率を最大化し、輸送コストの削減と環境負荷の低減を同時に実現することが可能になります。さらに、物流ネットワークの柔軟性が向上し、需給の変動にも迅速に対応できる持続可能な物流モデルの構築が期待されます。

デジタル技術の活用による倉庫業務の自動化
倉庫業務の効率化と最適化は、物流の全体最適を実現する上で欠かせない要素です。近年、デジタル技術を活用した倉庫業務の自動化が急速に進んでおり、企業の収益性へも大きなインパクトを与えています。ロボティクスの導入によるピッキングや仕分けなどの作業の自動化や効率化、自動走行ロボットによる効率的な商品移動、AIを活用した需要予測や在庫管理、過剰在庫や欠品を防ぎ、倉庫の稼働率を最適化できます。また、IoTセンサーを活用し、商品の温度・湿度管理やリアルタイムの在庫監視を行うことで、品質管理の精度向上も可能です。今後の物流業界では、デジタル技術へ投資できるかが、大きな意味を持つことになります。

3PLの課題を克服する4PL
従来の3PL(Third-Party Logistics)は、企業が個別に物流業務を委託する形態が一般的でした。荷主企業のコスト最適化を追求するがために、3PL事業者自身の収益まで減少し、その業務とコスト構造がブラックボックス化するという矛盾に陥っていました。近年は4PL(Fourth-Party Logistics)が注目されています。4PL事業者は、「荷主企業の物流部門」として物流ネットワーク全体を統括し、複数の3PLや輸送事業者を統合管理するコントロールタワーターとしての役割を担うことで、物流リソースの最適化と企業の物流コスト削減や輸送の安定化が期待されます。4PL事業者への転換には、高度な経営戦略やITの導入、人材育成など大規模な投資が必要になるため、物流業界以外からの新規参入であってもその地位を確立ことが可能です。

CLOの活躍への期待 ― 荷主企業が物流変革を推進
フィジカルインターネットの実現に向けて、荷主企業にも変革が求められています。これを後押しする動きとして物流二法が改正され、2050年度末までに一定規模以上の荷主企業には、CLO(Chief Logistic Officer)の設置が義務付けられました。CLOは、企業の陸奥流およびサプライチェーンを統括する重要な役割を担います。中でも重要なミッションは、物流全阿知の統合と管理、サプライチェーン全体を可視化し、データに基づいて物流ネットワークを最適化することです。社内外のステークホルダーとの連携により、企業の枠を超えた経営視点での物流変革を推進することが期待されているのです。

お客様事例

当社がご支援した、お客様の物流変革への取り組みの一部をご紹介します。

 

ホワイトペーパー

シグマクシスがこれまで蓄積した知見を整理し、フィジカルインターネット時代の到来に向けた新たな物流を構築する指針としてホワイトペーパーにまとめました。下記よりダウンロードいただけます。

経営視点で指揮する「物流変革」
フィジカルインターネット到来で成長する企業、生まれるビジネス
 

エコオケの会

シグマクシスは、2019年に日本初のフィジカルインターネットの実現を目指すコミュニティ「エコオケの会(エコシステムのオーケストレーターになりたい人の会)」を立ち上げました。製造・小売・卸・商社・物流・運輸・金融・不動産・IT・サービス・ベンチャー・大学・メディアといった多様な業界の、経営層から学生まで約200名を集め、新時代の物流をテーマに議論や情報交換を定期的に行っています。

また、エコオケの会の若手メンバーが物流の未来をテーマに議論する「ワカオケの会」も開催しています。

参加者は随時募集しておりますので、概要をご覧の上、info@sigmaxyz.comまでお問い合わせください。

登壇・メディア掲載

当領域のプロフェッショナル

池田 祐一郎

ディレクター

新卒で日系大手物流企業へ入社し、海外向け発電設備輸送の多数のプロジェクトに参画。その後、学生時代の友人と起業し、欧州アパレル企業の日本法人立ち上げに事業運営責任者として参画。その経験から物流の重要性を再認識し、外資系物流企業へ入社。アパレル企業の物流拠点集約、オムニチャネルのシステム開発などを推進し、今に至るアパレル業界の物流のスタンダードとなる仕組みを構築する。コンサルティング業界へ転身後は、企業の共同配送網の企画・立ち上げなど、新規事業開発や物流機能統合、事業戦略策定案件を支援している。社外ではフィジカルインターネットの実現を目指すコミュニティ「エコオケの会」を主宰。国際物流総合展、ロジスティクス・ソリューションフェア、アジアシームレス物流フォーラム、物流議論など、登壇多数。
2025 年3 月、立教大学大学院修了( 経営管理学)、公益社団法人 日本ロジスティクスシステム協会 企画・推進委員(2024 年~)