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IFRS新時代 ~迫られる連結経営への転換~(5)

執筆者:太田 寛 (パートナー)

プロフィール詳細

太田 寛
太田 寛
Hiroshi Ota

パートナー
専門分野:経理財務

航空会社システム部門、外資系コンサルティングファームを経て現在に至る。流通、製薬、運輸、製造等の幅広い業界に対し、経理財務分野のコンサルティングを実施。プロセス変革、経営管理、システム導入、内部統制強化等のプロジェクトを得意とする。

本格的なIFRS対応にあたって

IFRS対応に向けた取り組みはまだ助走段階である。しかしながら、調査を通じて、日本企業の対応に向けた体制やテーマ設定、および対応に向けた意識を見ると、これからの本格対応に向けて、いくつか留意すべき点がある。

 検討すべきテーマ
IFRS適用が直接的に要求しているのは、新基準による企業の財務状況を開示することである。したがって、会計基準の変更点を正しく理解することが重要なのは当然のこと、年4回の開示のみならず、日々のビジネスマネジメント上の考慮点を忘れてはならない。具体的には、グループ全体での予算管理の仕組みの設計、新しい基準に照らした業績評価指標の設定、経理部門の役割、組換処理、個々の取引の会計処理の判断の適正性をより確実に担保するためのセンター化など、検討すべきテーマは多岐にわたる。

例えば、IFRSベースで実績を報告するとなると、当然予算もIFRSベースで組んで、その予算を各事業やグループ各社へ展開していくことになる。前述の調査の結果では、元帳をローカルで持とうとする企業が大多数を占めているので、多くの企業は毎月はローカル基準で決算を実施するつもりのように見受けられる。しかし、実績記録の体系(元帳体系)を決めるにあたっては、ローカル基準で記録された実績を毎月IFRSベースに変換するのか、IFRSベースで作成された予算をローカル基準に変換するのか、もしくはそもそも実績の記録をIFRSベースとするのか、という予算実績管理の枠組みを考慮する必要がある。なぜなら、開示のことのみを考えた場合と、予算管理まで踏み込んで考えた場合とでは、結論が異なる可能性が高いからである。また、現在経営指標として用いているものに、追加的にどういう指標管理が必要なのかも検討しなければならい。期間損益の考え方から、純資産の期首残高と期末残高の差が利益だという概念が導入されることが、モニタリングをしていく上での指標にどのように影響するのかについても、業績管理上重要なテーマとなってくる。

忘れてはいけないのは、各検討テーマの根幹には、ガバナンスモデルの変革が横たわるということである。会計技術論の議論に終始することのないように、IFRS対応プロジェクトのテーマ設定をしなければ、日々の予算実績管理や業績管理の仕組みが整わないままに、IFRSによる開示が始まることになりかねない。

 IFRS適用後の運用体制
IFRS適用により、グループでの会計方針の統一が図られるが、その維持・運用は簡単ではない。グループ経理規定を整備し、それを遵守するように各事業部門やグループ各社へ通達することで、プロセスが問題なく運用されるなら、どれほど本社のCFOは気が楽だろうか。新規定適用当初はある程度規定が遵守されるとしても、時の経過と共に変わり続けるビジネス形態に対応していく内に、各事業部門、グループ各社の経理担当者の資質やスキルに依存せざるをえなくなり、実体と規定が乖離していくというのが、ほとんどのCFOの悩みだろう。本来本社CFOが持つべき経理規定やプロセスに関するオーナーシップが不十分であり、事業部長やグループ会社社長の方針がそもそも強い場合には、乖離はさらに拡大する可能性がある。

その乖離を封じこめる手段として、業務の集約化、いわゆるシェアードサービスが有効である。この手法はもう何年も前から議論されているが、これまでは「コスト削減施策」として検討されてきた。しかし、ここ数年内部統制の強化が叫ばれた結果、最近では業務品質の一様化や統制に有効な手段であるという認識が高まっている。ある会社では、シェアードサービス化して間もない当時、こんなエピソードがあった。申請された社長の立替経費が規定を逸脱していたため、シェアードサービスセンターで否認処理された。以前なら、社長の申請ということで、経費処理の担当者が気を利かせて、秘書などと調整の上、データを適切に修正して処理していたが、否認されたことで話題となった。シェアードサービスセンターは本社が指示する規定に従って処理することで、アウトプットの品質を一様化することができるひとつの象徴的な事例だといえる。

今後IFRSが適用され、会計処理に関する解釈を統一した上で、会計処理を適切に実施していこうとするとき、グループ会社の経理体制が脆弱なケースが多い場合は、現体制に依存することは危険といえる。個々の取引の処理またはチェックをセンター化し、集中的に処理することが業務の品質と効率の両面から効果的なケースもある。また、前述した予算管理の観点から、IFRSベースの実績を月次で作成していくことを求められる可能性もあるが、果たして各社でこれが実施できる体制を組めるであろうか。自社グループにとってのシェアードサービスの有効性を、IFRS対応を機に今一度検証すべきだろう。

 IFRS適用に向けたプロジェクト推進体制
多くの企業では、経理部門が中心となって情報収集や事前検討を推進しているが、前述のように、予算管理、業績管理、組織体制等の議論を推進するためには、経理部門のみの体制では不十分である。経理部門が主要な一翼を担うのはもちろんであるが、これらのテーマを検討していくには、経営企画部門とともに経営トップのリーダーシップが肝要である。経営トップは、このことを十分理解し、適切な検討テーマの設定とそれを推進していくためのプロジェクト要員を社内外から確保する努力が必要である。

以上のように、日本企業は、IFRSを単に開示上の問題と捉えるのではなく、過去10年以上十分な取り組みができなかったグループのガバナンスモデルの変革を伴うテーマであることを認識し、グローバル競争を勝ち抜くため、それにチャレンジしていくべきである。