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IFRS新時代 ~迫られる連結経営への転換~(3)

執筆者:太田 寛 (パートナー)

プロフィール詳細

太田 寛
太田 寛
Hiroshi Ota

パートナー
専門分野:経理財務

航空会社システム部門、外資系コンサルティングファームを経て現在に至る。流通、製薬、運輸、製造等の幅広い業界に対し、経理財務分野のコンサルティングを実施。プロセス変革、経営管理、システム導入、内部統制強化等のプロジェクトを得意とする。

日本の連結経営の実態

日本企業の連結経営の実態を、海外のリーディングカンパニーとの比較をすることで、いくつかの視点で整理してみることとする。

 本社機能
海外のリーディングカンパニーは、全般的に本社の権限が強く、トップダウンアプローチである。予算作成が顕著な例で、株主利益を勘案し、本社側で予算を立て、それを各事業部門や各グループ会社に展開していく。予算立案過程において、事業部門やグループ会社が関与することはない。
一方、日本企業では、全般的に事業部門の権限が強く、ボトム・アップアプローチである。海外のリーディングカンパニーとは対照的に、予算作成においては、各部門で予算案を作成し、本社はそれを集計し、各部門と調整の上で決定する。
いずれの手法においてもメリット・デメリットはあるが、スピードが要求される昨今のビジネス環境においては、現場へ権限を委譲するものと、本社で統制を強く効かせるものとを峻別し、グローバルで統制を強めるものは徹底的に本社でコントロールする手法が求められる。

 プロセス
海外のリーディングカンパニーでは、業務プロセスの統制・維持のしくみが浸透しており、プロセスオーナーがプロセス設計と例外なき適用の責任と権限を有している。したがって、子会社の社長といえども、プロセスオーナーの承認なしには現在の自社のプロセスを変更することはできない。一方、日本企業では、プロセスオーナーという概念が希薄であり、プロセス設計は各社に委ねられている。

 経営情報管理
海外のリーディングカンパニーでは、グループ全体の経営情報を効率的かつ効果的に収集し、報告できるしくみが整っている。プロセスの共通化とともに、システムの共通化が促進され、かつそこに保有されるデータ定義およびコード類がグループで共通化されている。
一方、日本企業の場合は、プロセスの共通化が図られていないため、システムの共通化も進んでいない。また、データの意味やコード類の統一が不十分である。このため、経営情報の収集には人手を介す必要があり、情報の収集に時間を要するとともに、マニュアル処理が介在することで、データの信頼性を低下させる要因となっている。

 機能組織
海外のリーディングカンパニーでは、機能組織は集約されており、しかもその企業グループにとって最適な場所にその機能が設置されている。例えば、経費処理センターは時差の関係を考慮したグローバルに中国、インド、メキシコの3拠点に統合されていたり、固定資産管理業務はオーストラリアに、トレジャリーセンターはオランダに統合されていたりする。
一方、日本企業の多くは、機能組織の集約化は一部に留まっており、グループ全体での取り組みとなっていない。シェアードサービスセンターの設立はするものの、本社としても強くグループ全体に適用せず、業務を移管するか否かは各社の意向に委ねている。

 人財
連結経営モデルのひとつの特徴は、法人格の枠を越えて経営資源を共有し、有効活用する点である。その最も有限な経営資源の代表が人財である。
海外のリーディングカンパニーでは、タレントマンジメントという手法が浸透しており、将来の企業グループの幹部としてリーダーシップを発揮していく役割を担える人財を若いうちから選別し、意図的に社内のポジションを与えていくことを、企業グループのプログラムとして実施している。能力が高く、パフォーマンスが高い人財を、国籍を問わず、登用していくカルチャーがある。
一方、日本企業もこのような取り組みを開始している企業の記事も目にする機会が増えてきたが、本社からの出向による統制を図り、国籍を越えた人財の登用が海外のリーディングカンパニーと比べて遅れていると言わざるを得ない。

2010年5月から6月にかけて実施したIFRSサーベイ(実施主体:IFRSコンソーシアム)の調査結果は、これらの結果を裏付けるものだ。同調査は、日本企業のIFRSへの取り組み状況と本格対応に向けた取り組み意識、さらには連結経営への転換に対する意識を調査したものだ。有効回答企業数は201社だった。この調査項目のひとつに、日本企業の連結経営に関する現状と将来を示すものがある。図1は、日本企業の連結経営に関する現状と将来をスコア化したものである。スコア化の方法は、連結経営の施策を8つ定義した上で、それぞれ統合レベルに応じて、3点、1点、0点とポイント化し、8つの合計を算出した。この方法で子会社数10社以上の企業122社の連結経度をスコア化し、平均値を算出した。

<図1>

その結果、現在のスコア平均8.6ポイントに対して、3年後の将来は13.3ポイントと、連結経営度を高める意識があるという結果が出た。但し、8つすべての施策がグループ全体統合できている状態が24ポイントだということを勘案すると、将来においても緩やかな統合レベルに留まるだろう、と言わざるを得ない。
さらに上記8つの連結経営の施策を、(1)から(4)の会計に直接的に関連する項目と、(5)から(8)のようにプロセス、組織、システム、人財など仕組みに関する項目の2つに分類して検討してみた。(1)から(4)の会計に直接的に関連する項目は、制度の制約により、統合のレベルが向上する面がある一方、(5)から(8)の仕組みに関する項目は、企業が主体的に意思をもって進めないと統合のレベルが上がらない施策であるといえる。
そこで、(5)から(8)の仕組みに関する項目が、ひとつでもグループ全体で統合できている企業を、主体的に統合を進めているという意味で、ここでは「統合企業」と呼び、それ以外の企業を「非統合企業」と呼ぶことにする。

この2つの企業群でパフォーマンスの面で差があるかを調べてみた。売上高成長率の差を集計してみると、2005年から2009年の年平均売上高成長率は、図2に示すように、統合企業が1.3%であるのに対し、非統合企業はマイナス0.5%と差が顕著に表れている。また、これを業種別に分解してみても、1業種を除いたほぼすべての業種で同様の結果が得られた。つまり、統合企業はハイパフォーマーだといえる。当然、成長性は様々な要因に依存し、決して連結経営度のみに依存するわけではないので、単純に論じることはできない。しかし、公表されている他の調査でも、企業の統合レベルと業績との関連性について同様の結果が得られており、この事実は重視すべき情報だといえる。

<図2>